第36章、スッポンモドキ・・・混濁の珍獣。
 もう20年以上になるだろうか・・・。このカメを初めて熱帯魚屋さんの水槽で優雅に舞っている姿を見たのは。それは普通のカメでも無く、又ウミガメでも無い。こんな種類が存在する事さえ知る術もなった時代なのだから、その時の驚きと興奮は今でも鮮明に焼き付いて忘れる事はありません。その時、もう一つ驚かされたのが、水槽の脇に掲げられた値札です。目に飛び込んできた価格は何と、¥350000!!!でした。何度ゼロの数を数えても変わる事はありません。小さな奇怪なカメゆえにいたしかたない価格だろうと幼心に思った事は言うまでもありません。でもその時思ったのが、いつか金持ちになって絶対このカメを買ってやる!そう心に誓った子供店長時代の思い出でが、私の心に、スッポンモドキの完璧なる飼育への挑戦、と言う形で現れたのはそれからさほど時間のたたないある夏の出来事でした。

 熱帯魚のルートで大量輸入されるようになった頃、このスッポンモドキも他の種と同じように価格の暴落が起こりました。あれほど高値だったカメが1匹¥3000から¥5000と言う時代の到来です。まだ業界人では無い私はこの感動に胸躍らせ、5~6匹ほどを購入し飼育を始めました。さてさて、ここからこのスッポンモドキと言う種類との長い格闘の始まりになる事を誰が予想していた事でしょう。なぜこんなに難しい!!!わからない!!!たぶんみな一度はそう思うと思います。

 何がこの種を難しくさせているのか?それは大きく分けて2つあり、一つは混泳の不向きさ、もう一つは皮膚の弱さからくる発病にあります。最初の問題は噛みあいにより起こる縁甲板の損傷や手足の損傷であり、小さな子供達はこの傷が原因で感染症を起こしたり、免疫力の低下で餌を食べなくなったり、又外傷性ストレスで短期間で死に至る個体もあとを絶ちません。免疫力が低下した個体は水に潜る事が出来づ常に浮いた状態になりこのまま死に至る場合も起こってきます。

 後者の場合は、甲羅や皮膚組織に白い水カビ状の丸い円を描いた細菌感染症状が現れ、これが時間と共に無数に増えて行き最終的には死に至らしめます。これはソフトシェルタートルに起こる症例とほぼ同じで、免疫力の無い子供達はすぐにこれに感染してしまうのです。この状況のメカニズムを自分なりに考証し検証していくのにかなりの時間を要しました。

 ではこれらはどう防ぐ事が出来るのか?噛みあいによる外傷は、単独飼育にすれば問題無く解決できますが、細菌性皮膚病もしくは皮膚炎を抑えるには何をすべきなのか?最初の頃は、これを単に薬を入れるだけでの治療法で行っていましたが、結果がなかなか伴ってきませんでした。中にはそれで感染を抑えられ治る個体も見受けられましたが、確率が低すぎてベストな治療法とは自分自身思えません。そこで考えたのが自然環境下の生息状況でした。

 スッポンモドキの子供達は大きな河口の汽水域を生活の場にしています。そこの水質は大方PH7前後、水温28度ほどの環境です。この環境を水槽で再現すればいいのでは?と言う発想でおこなってみましたが、結果的にそんなに向上はしません。なぜなんだ?何がおかしい?こんな状況が、そう何年もうやむやなまま頭の中ではづ~っとありました。しかし長年カメを飼育、検証していく中である事に気付きました。なぜソフトシェルタートルは泥や砂の中でも細菌に汚染されないのか?それと小さなカメの生息領域について。この二つが今まで悩み続けていたスッポンモドキの病気の抑制についての答えを導き出してくれるのです。

 ソフトシェルタートルが泥や砂に潜るのは身を隠すと言うのも一つの答えですが、そうする事により水中の悪い細菌類から体を守っているのだと思われます。通常、水には、水の中に含まれる細菌が存在し、それが体に付着する事で炎症や水カビが発生します。これらを撃退するのが好バクテリアとして存在するバクテリア類だと考えられるのです。バクテリアは熱帯魚飼育では当たり前の存在ですが、カメ飼育ではそう意識されない領域な為、長い間見落としていた落とし穴だったのでしょう。実際のところ、バクテリアにより安定した水質下では、安定した好結果が現れ出したのが何よりの裏付けになりました。自然下でバクテリアと細菌の間には深い関係があると言う事はよくよく考えると当たり前の事ですよね。

 この結果にもう一つの理由である子供の生息領域を照らし合わせる事にしました。大きなアダルト個体に比べ小さな子供達は浅場での生活になります。そこは流れもほとんど無く、水深の浅い高温の場所です。この様な場所ではPHは下がり軟水傾向になる為、弱酸性のバクテリアが一番繁殖する場所になります。が、しかし河口と言う事でPHはさほど下がらないと言う事も推測できます。これらを総合的に考えると、
       温度が高く、水深の浅い、バクテリアが豊富な水質!!!
 まさにこれがスッポンモドキのベビーを飼育するのに一番適した環境であると考えました。
この環境を飼育ケージで再現するならば、水温32℃~34℃、水深20㎝~30㎝、上部、又は外部フィルター仕様!これに細菌を抑制、又は死滅させる為に熱帯魚の薬を薄めに使用し、PH調整の理由でサンゴ砂か荒塩を投入する!これで結果を見る事にしました。

 長い時間をかけ考えられる全ての方法を駆使した結果、見事に生存確率を上げ、発病率自体の低下をもたらす結果につながりました。これを克服する事で、大量の数を扱えるようになりとても飼育が簡単な種へと自分の思いは変貌をとげ、長い闘いの終焉につながりました。

 ほんの2~3℃の温度の違いや変化、また目に見えない物との戦いは色々な事を私に教えてくれました。大きさの違いで生息環境を変えると言う発想もここで生まれ、生き物には非常に重要な要素の一つと言う事を学びました。種類で飼育方法を統一してはいけないと言う教訓ですよね。スッポンモドキを通じて教えられた事は未だに多くの生体飼育に役立ち、見えない物を見る目を私に授けてくれたのは本当に嬉しい事です。初めてであった衝撃の瞬間からはじまった私のスッポンモドキとの付き合いは、今ではあの頃思った純粋な思い出で溢れています。そんなスッポンモドキも今では乱獲と地震や津波の影響もあり生息数が激減してきている事は残念でなりません。今後輸入される個体は1匹でも大事に育ってほしいと願わずにはいられません。

 
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by kanrep | 2010-03-01 18:45 | 私的バイブル集
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